エネルギー管理士インタビュー <第6回> 虫上守さん (岡山県)
虫上 守 さん
1942年 岡山県倉敷市 生まれ
倉敷工業高校 電気科 卒業
現在、公益財団法人 大原記念倉敷中央病院機構・倉敷リバーサイド病院 総務・管理グループに所属
<保有資格>
<略歴>
一旦、離れることになった同病院に、後日、直雇用されて現在に至る
虫上さんが勤務する「倉敷リバーサイド病院」は、外来患者が1日あたり300人、入院患者が90人ほどの中規模の病院。
同病院がある高梁川の河口付近は、夏は凪(無風)状態となり、とても暑いそうです。
【倉敷リバーサイド病院・ホームページ】
【倉敷リバーサイド病院周辺の風景】
【倉敷リバーサイド病院の玄関付近】
まずは、倉敷リバーサイド病院の裏側(電力設備・熱設備)をご紹介します。
【電気設備室】
電気設備室には、高圧受電設備~変圧器~低圧配電盤。隣室には、非常用発電機が設置されています。
【屋外】
屋外には、空調設備である冷温水発生装置、スーパーフレックス・モジュールチラー(ヒートポンプ高効率仕様)が置かれています。
2010年、ガス利用の設備から、この電気モジュールチラーに切り替えたそうです。
その際に、機器の性能を十分に発揮させる運用を工夫したのも虫上さんの業績の1つです。
【機械室】
機械室には、給水設備・給湯設備・蒸気設備があります。
以下の写真は、屋外のチラーにより加熱・冷却された温水・冷水(空調用)を病院内に送り出す装置類。
病室には「冷温水」の1系統を、手術室には「温水」と「冷水」の2系統を送り出します。
「温水」「冷水」の両方を送るのは、素早く、室温と湿度を管理する手術室ならではのニーズに応えるためだそうです。
ちなみに、病室には、温水・冷水からの放射により室温を調節する「ファンコイルユニット」が設置されています。(写真なし)
こちらは、川崎重工製の蒸気ボイラー(ガス)や貯湯槽など。ボイラーで発生した蒸気は、そのまま「滅菌器」で使われたり、建物内の加湿に利用される他、熱交換器を通じて給湯にも利用されます。
この高効率のボイラーにリプレースした際に、高効率を発揮できるよう、需要に合わせた制御特性にチューンナップしたのも、虫上さんの業績の1つです。こちらの病院でも、やはり給湯でのエネルギー使用量が多いため、効果は大きかったようです。
エネルギー管理士の虫上さんに、インタビューしました。
― 日々、どのようなお仕事を?
(虫上さん) 電力・空調・給水・給湯・蒸気などの設備管理が主な仕事です。いわゆるビル管理ですね。そして、設備の運転記録とあわせて、外気温や建物内の気温なども記録します。
また、月に1回、病院内の「省エネワーキンググループ」の会合で省エネに関するデータを発表し、意見交換をします。
― これまでに、いろいろと設備を更新されたようですが。
(虫上さん) 大きなものでは、「空調設備」と「ボイラー」を入れ替えました。こちらのグラフは、その効果を示しています。
空調設備を入れ替えてエネルギー源をガスから電力に切り替えたので、ご覧のとおり、平成22(2010)年度に電力とガスの使用量(棒グラフ)が大きく変わり、かつ、エネルギー使用量の総量(折れ線グラフ)が大きく下がっています。
― こちらの監視卓も?
(虫上さん) 監視・制御装置も入れ替えました。
その際に重視したのは、「何を見て、何を制御するのか」です。例えば、空調の温度制御に関しても、1つの画面にどのような情報を入れ込むべきなのかを考えなければなりません。その判断材料は、日常運転による日々の経験です。
― 他にも、いろいろとやられているようですね。
(虫上さん) 「ライトダウン(消灯)」や「夏場のグリーンカーテン」など。
いずれも、やりっ放しではなく、範囲や時間を決めて、その効果を計測することが大事だと思っています。
― 現在、進行中のプロジェクトはありますか?
(虫上さん) 今年、インバーターによる手術室の風量調整をやっています。こちらの資料は、その試行時の調査結果です。風量は30%、電力は70%も低下しています。
― どうして、インバーターを導入しようと?
(虫上さん) 病院の手術室には、いろんな制約条件がありますが、最も大切なのは「清潔さを保つこと」です。
そのために、手術室は陽圧(外部よりも気圧が高いこと)である必要があります。手術室から外部へと風が流れることにより、手術室内に埃などを入れないためです。
一般的には不要な風は送らないほうが良いので、夜間などは外気を入れないためにダンパー(風量調節装置)を閉めて空気の流れを止めれば良さそうですが、それは手術室では現実的ではありません。送風を止めると、やはり不潔になりますので、24時間連続で運転せざるを得ません。
そこで、24時間運転で送風するものの、送風機にインバーターを導入し、夜間・休日などの手術のない時に手術室を陽圧に保てる範囲で風量を下げる(送風機のモーターの回転数を下げる)ことにより動力を削減し、省エネを実現しています。
― 虫上さんの保有資格について教えてください。
(虫上さん) 学校では電気の勉強をしたので、電気は得意分野です。学校を卒業後、三菱石油・水島製油所に就職しましたが、29才のときに転機が訪れました。三菱石油から東北石油へ出向になり、妻と小さな子供2人(3才、5ヶ月)を連れて、生まれ育った倉敷から仙台へと引っ越しました。そこから10年間、仙台で暮らしました。
出向先の東北石油は小さな会社なので、広い範囲の仕事を担うことになりました。当初は「熱」をよく知らなかったので、一生懸命に勉強しました。当時、「一級ボイラー技士」や「熱管理士」の勉強をしたことで、「動力」「ボイラー」「熱設備」などに詳しくなりました。資格の取得を目指すと、目標が出来て目的意識が芽生え、勉強の期日も意識するようになるところが良いと思います。
そして、「資格は名刺代わりになる」と実感します。三菱石油を定年退職後、岡山大学附属病院から声が掛かったのも、また、この倉敷リバーサイド病院にチームリーダーとして送り込まれたのも、いろんな資格を保有しているおかげだと思っています。
― 最後に、「エネルギー管理士」の資格を持っていると、どんな良いことがあるのか教えてください。
(虫上さん) 現在、この病院での私の立場は、法律で定められた(第一種エネルギー管理指定工場等で選任が義務付けられている)エネルギー管理士ではありません。
しかし、エネルギー管理士に関する勉強の過程で、いろんな知識が入ってきます。物の見方や視野が広がります。本当に思わぬところで役に立ちます。間違いないですね。そして、省エネに目が向くと、設備の運転の仕方など、運転員としても役立ちますし、設備改修にも役立ちます。省エネを積み重ねていくうちに、設備にも詳しくなるのです。好循環だと思います。
病院では、空調はかなり重要な位置づけです。室温や湿度は、病院内で生活をする人達には敏感に感じるもののようです。皆さんに病院内で快適に過ごしていただきながら、如何に省エネを実現するのか。その発想の素は、エネルギー管理士としての知識や経験なのです。
長年、この病院で省エネに取り込んできた私の目には、病院内の「上層・下層での温度差」や「気流の流れ、温度の移動」がハッキリと見えます。
だから、どうすれば良いのかもわかるのです。
本当なんですよ。笑
<2019年1月4日掲載>